録画してあったNHKスペシャル「クジラと生きる」を視聴した。

番組要旨

和歌山県太地町、人口3400人。
多くの人が漁業や水産加工など、クジラで生計を立てている。

今、この町は外国の環境保護団体による捕鯨反対運動に揺れている。
反対運動では、漁師の顔を執拗にカメラやビデオで撮影する、仕事へ向かう漁師の車の進行を妨げる、罵声を浴びせる、クジラの命を絶つ場面を盗撮してインターネットで公開する、などを行っている。

捕鯨活動を行う団体の一つ、”シーシェパード”が太地町で反捕鯨活動を行うきっかけとなったのは、The Coveというアメリカの自然保護団体が制作した、太地町のクジラ漁のドキュメンタリ映画。クジラ漁の残虐さを主張するもので、この映画がアカデミー賞を受賞したことをきっかけに、クジラ漁への欧米を中心とする非難が起こった。

シーシェパードは、1970年代に設立された環境保護団体で、海に暮らす野生動物を保護することを目的としており、日本のクジラ漁をやめさせることも、その活動の一つ。メンバーの多くは欧米やオーストラリアなどの出身。医師、弁護士、学者もいる。野生動物の保護運動に賛同する企業や個人からの寄付金で活動を行っている。

2010年11月、アメリカの反捕鯨団体シーシェパード太地町が初めて意見交換会を開いたが、両者の議論は平行線をたどった。シーシェパードは今後も町に滞在し、クジラ漁の反対運動をする一方、太地町も主要産業である捕鯨は今後も続けていく姿勢を示した。

シーシェパードの幹部は

  • クジラやイルカは最も高等な生き物で、そのような生き物を守ることが海を守ることにつながる。
  • イルカやクジラは文化を持つ動物である。言語、歴史、家族をっている。

と主張。

20代〜60代までの23人の漁師が所属する”いさな組合”。
”いさな”とは奈良時代から続く、「クジラ」を意味する言葉。毎年9月から翌年の2月まで、追い込み網漁でクジラを捕獲する。
漁場は太平洋沖30kmの黒潮の境目。捕獲するのは体調6メートル以下の小型クジラ。この中にはイルカも含まれる。
追い込み網漁は12隻の漁船でクジラの群れを囲い、クジラの嫌う金属音を出しながら(海に挿した金属棒を叩いて音を出す)、入り江に追い込む。

漁師はクジラ漁が終わると、漁協で報告書の作成を行う。
太地町で行われている漁は調査捕鯨と異なり、規制はされていない。
しかし、資源保護のため、国と県による管理の下で行われている。
漁毎に、頭数、種類、発見した場所などを正確に報告する。年間捕獲量は2200頭に制限されており、捕獲しすぎたときは、そのたびに海へ逃がしている(追い込みを止める、放流するなど)。

400年の歴史を持つ太地町にある神社には、クジラの骨が奉納されている。また、クジラの歯は印鑑に、ひげは釣竿にと、クジラのすべてを無駄にすることなく利用してきた。
住民の名字もクジラ漁に由来するものがある。
漁師はクジラの肉を近所の人と分け合う。クジラ漁は町民同士をつながりも作ってきた。

反捕鯨団体による運動が始まってからは、クジラの命を絶つ作業を行う入り江にはシートが張られた。クジラを殺す様子が見えないようにするためだが、それでも隠しカメラを設置して撮影したと見られる映像が反捕鯨団体によってインターネットに公開された。そのたびに漁協には電話やFAXで抗議が来る。

反捕鯨団体の運動では、漁師に執拗にビデオカメラを向けながら罵声を浴びせて挑発し、漁師が怒り出す様子を映像に収めようとする。漁師たちは怒りだしそうになりながらもお互いに冷静になるようになだめる。映画のThe Coveでは、漁師が挑発に対して怒りを露にする場面が多用されていた反省がある。

”いさな組合”の話し合いでは、組合の存廃についての話題がでるほどに追い込まれている。また、シーシェパードによる調査捕鯨の妨害を受けて、国は調査を中止するなど、太地町のクジラ漁に逆風が吹く。
それでも、いさな組合は2月、クジラ漁シーズン最後の漁へ出航した。

感想

まずは、太地町はクジラ漁があってこその太地町であるということがわかった。400年という長い歴史、クジラを通した人同士のつながり。そして、クジラの命を少しも無駄にはしないという姿勢。
私自身、5歳か6歳の頃に太地町を訪れたことがある。町の様子などは覚えていないのだが、「くじらの博物館」に行ったことはよく覚えている。博物館では巨大なくじらの骨や、脳のホルマリン漬けなどの展示があったほか、イルカも飼育されていたことを記憶している。自分が小さい頃の記憶は限られたものしか残っていないが、数少ない記憶に残るほど「くじら博物館」は印象深いものだったのだろうと思っている。このことは太地町がクジラと共にあることを発信する強い力を持っている地であることの証拠ではないかと思う。

異なる宗教間で争いの終わりが見えないのと同様に、クジラを食べる、食べないという文化の違いを互いに乗り越えるのは難しいだろう。ゆえに、反捕鯨団体が活動するのも、太地町がクジラ漁を今後も続けていくのもどちらも間違ってはいないし、行動するのは自由だ。
ただし、太地町で反捕鯨運動を行っている外国の団体は、明らかに活動の仕方を間違えている。まず、太地町に居座って、現地の人に直接的に迷惑をかけている。漁の妨害、盗撮、漁師に対する執拗なカメラ撮影、罵声など。そして、漁師が怒る様子、イルカを殺す場面などの作為的な映像を流し、太地町捕鯨文化的な面を無視している。

とはいえ、
クジラ漁は他の漁業に比べれば、大きな産業ではなく、外国の反捕鯨団体がいろいろと抗議ビデオをインターネットに公開し、それに対する賛同意見が殺到しても、クジラ漁ができなくなることはないだろう。そもそも、シーシェパードのようなインモラルな団体の活動や主張に同意する人が国内外で多数派を占めるとは思えない。言い方は悪いかもしれないが、京都などに比べて太地町を訪れる外国人観光客も多くは無いだろう。要するに外国の反捕鯨団体の主張・要求など無視すれば良いだけの話なのだと思う。

クジラ漁は産業的に大きくなくても、文化的な価値は大きいと思う。番組で紹介されたように、太地町は人口は3000人ちょっとで、クジラ漁を行う組合の漁師は23人と紹介されていた。わずかな人数で伝統を守りながら生活しているのだ。国や自治体はせめて、この文化の担い手がこれまでどおりに仕事ができる環境を取り戻す対応をするべきでないかと思う。
太地町で反捕鯨運動を行う外国の団体は、漁師に対して直接的な危害を加えているわけではないが、漁師の写真や映像をインターネットでまるで犯罪者のようにして晒し、仕事場へ向かおうとする漁師の車を妨害し、入り江の防護ネットを破壊するなど、ほとんど暴力といってよい行為を行っている。

番組中では、車の発進を妨害された漁師が警察を呼ぶシーンがあったが、妨害時間が短かったため、取り締まることができないという。国民がこれまで行ってきた”通常の”生活ができなくなっている事態が起こっている。反捕鯨団体太地町で行ってきた妨害行為を考慮して、警察はもう少し柔軟に対応しても良いと思うし、法律の問題があれば条例を作ったり、法改正も行うべきではないか。